2022-03-12

#01 OLD TOWSON

第一回となるナルキッソス論文では神奈川県相模大野に店を構えるハンドメイド靴と革小物を展開するブランドOLD TOWSONに訪れた。代表の鈴木浩太は私の武蔵野美術大学彫刻学科時代の同級生であり、大学の友人の中でも定期的に会う仲である。

大学で共に彫刻を作っていた彼が、いつから靴を意識し、開業するに至ったか、そこを掘り下げる過程で、彼の思いや志に触れることが出来た。

在学中の彼の作品で印象に残っているのは卒業制作の巨大な馬の彫刻である。自分よりも大きな作品に挑戦するのは卒業制作で初めて臨んだことと記憶しているが、芸術作品において「大きい」ということは一定のインパクトを残すものであり、室内に悠然と立つ巨大な馬は優しい存在感を持つ作品だった。しかしながら、その裏で彼は自分の彫刻がどこまでいってもオブジェや飾り物であるということに物足りなさを感じていたと言う。

元々ファッションに興味のあった彼は卒業後、アパレルのセレクトショップに就職し、販売員として店に立つことになったが、そこでも疑問を感じることになる。売る側も買う側も表記上の原産地などうわべだけの価値を重んじて関わり合うことや顔の見えない誰かが作る愛着のない制作物を横に流すだけの日々に虚しさを感じ、約一年間で退職することとなった。

そんな彫刻で感じた実用性の欠如、アパレルで感じた本質的価値に対する欲求、それを満たすべく今後のキャリアを塾考する中で、延長線上にあったのが靴だった。身につけるものの中で実用性を最も欠かすことが出来ないものが靴だ。靴は履くだけでなく、歩けないと話にならない。そんなファッションであり、道具でもある靴を通して自己表現をしたいと強く思うようになり、靴の専門学校の門を叩いた。

専門学校にて2年間、靴作りの基礎を学ぶことになるが、元美大生ということもあり、ある程度手先には自信があった。しかしながら周りの能力は想像以上に高く、その自信は早々に折られることになる。課題が多く、卒業まで辿り着くのは約半数ほどの厳しい環境だが、今まで上手くいかないと投げ出しがちだった自分を悔い、必死に食らいついた結果、卒業制作では好成績を納めた。学生生活の話を聞く中で印象に残ったのは授業の中で見たあるファッションデザイナーのドキュメンタリーの話だ。そのデザイナーは「コートが美しいのは、コートが必要だったからだ」と言う。靴に辿り着く過程で考えたように、美しさと実用性は深い関係がある場合が多く、その関係の追求が彼を動かす原動力なのである。

専門学校卒業後、靴職人としてのキャリアをスタートするわけだが、彼が選んだのは、町でよく見るクイックサービスが売りの靴の修理店だ。靴職人を目指す専門学校卒業後の選択肢としては珍しく、実際に同業者に馬鹿にされたこともあったと言う。そこに彼は強い違和感を抱く。靴職人の仕事は靴を作ることだけなのだろうか。靴は履いて使うものであり、歩けば当然消耗する為、長く使う為にはメンテナンスが必須であり、靴作りと修理はセットでなければならない。

彼は靴職人の在り方に兼ねてから疑問を感じていた。職人は技術を売りたい欲求が強い。もちろんそれを求める顧客も一定数いるだろう。しかしながら全ての人がそれを求めているとは限らない。靴職人にはお客さんが何を求めているかという視点や気遣いが欠如していると彼は言う。技術があることは前提となるのだが、その技術をお客さんが求めることに合わせて使うことが必要なのである。

例えば大切な靴の修理を依頼され、その状態が元通りにすることは難しいような状態であったとする。この場合、大半の職人が依頼を辞退することになるが、彼は60、70点でも良ければ履けるようにしますという提案をする。または急ぎの用事で履きたいという依頼もあるだろう。時間を要求される際は当然早さを売る。これは私の本業である真空ポンプでも同じことだ。修理現場の基準は性能であり、数値としての合格ラインを越えるために最適な部品交換作業を行う。それは正しくもあるのだが、全てのお客様がそれに当てはまるわけではない。数値よりも、長持ちすること、早いこと、価格を安く収めることなど求めることは人それぞれで、お客様の使い方や要望を見極めることが大切なのだ。

従来の職人が軽んじてきた部分に違和感を覚え、様々な要求への対応力を身に付ける為に敢えて職人が蔑む対象であるクイックサービスで下積みすることを選んだ。またそこで出会う一人一人のお客様に向き合い、接客を徹底的に磨いた。実際、私が今回店を訪れた際に驚いたのは彼の接客だった。というのは大学生時代の彼は社交性が高いとは決して言えない性格だったからだ。自分の知り合いが仕事場に来た際、その視線が気になり、接客に照れが出てしまうことがないだろうか。私に対する照れもなく普段通りであろう丁寧な接客を行う彼の姿に頼もしさを覚えた。

OLDTOWSONは現在、靴だけでなく、ベルト、財布、花瓶など革小物の展開を幅広く行っている。コンセプトのParts of your lifeにもある通り、自分の作品が生活の一部として存在し、使用者が心豊かに過ごすための一助となることを望んでいる。革の魅力は長く使うことができることや使う過程で使用者それぞれの変化が現れることであり、一つとして同じ変化はなく、使用者1人1人の身体的特徴、クセ、環境、生活スタイルに対して異なる表情を見せる革にロマンを感じるのだと言う。

革製品の多くは牛や馬が使われる場合が多く、そのほとんどは海外製である。余談ではあるが、革製品に使われる革は食肉の副産物として生まれるものだそうだ。業界内ではそんな海外製の革が良しとされる傾向があり、当然高値となる。そのうえで彼が好んで使う素材は豚の革だ。豚は国内供給可能な素材であり、比較的安価に入手できる。また豚は毛穴が大きく、通気性が高いという特徴もある。ここでもうわべのステータスでなく、別視点から見える価値や選択肢を提供することを意識している。

素材だけでなく、アトリエを見渡すと靴職人特有の多くの道具があることに気がついた。そこで尋ねてみると道具には大きなこだわりは持っていないと言う。道具にこだわることが顧客満足につながる場合もあるが、特に成果物を通しての関わりになると自己満足に終わることもある。あくまで現段階では、道具にこだわることが目の前のお客様が求めることに直結していないというのが彼の考えだ。職人の中で「行き詰った時には道具を見直せ。」という言い伝えがある。今の自分はまだその領域にはなく、ものを作るということに集中し、経験を重ねていきたいと言う。今、彼が追い求めるのは道具より、技術より、目の前のお客様が喜ぶことにフォーカスすることなのだ。

最後に今後の展望について聞いた。前述したように業界では、靴づくりと修理が共存しないことが多い。OLD TOWSONは規格靴、オーダー靴、修理全てを共存させ、愛着を持ったものが長い時間をかけて大切に使われていくことを目指す。そのなかでも特に規格靴に力を入れ、ドレス、リラックス、ワーク、スポーツなどあらゆるカテゴリのラインナップを展開していく。時や場所を問わず生活のなかにOLD TOWSONが存在することを望んでいて、近い未来には日本全国で展示・受注会を行い、多くの人に自分が大切にする価値を伝え、共感者に出会いたいと言う。

自身の社交性から人と関わらなくても良い職種として職人を選んだのだが、行きついたのは真逆の考えであった。職人だからと言って技術にのみ没頭し、成果物による表現で終わりにするのではなく、靴や革製品を通して人との関わりを生み、要望に応えることに彼は今やりがいと喜びを感じている。

スコットランドでは靴屋をSnob(スノッブ)と呼ぶ。しかしながら本来の意味とは異なり、「世間的な名誉や金銭を第一とする俗物根性」「知識・教養をひけらかす見栄張りの気取り屋」という意味の隠語としてスノッブが使われる場合がある。19世紀、イギリスで新興成金の中流階級が生まれ、紳士気取りの市民が増えたことで、その風刺として小説家サッカレーが「スノッブ読本」を書いたことでこの言葉が広まった。この言葉はナルキッソス研究所が掲げるコンセプトとも共通する。肩書や所有物によって満たされること、流行や教養に溺れること、そんな前時代的な価値は我々には響かない。

流行やうわべだけの価値でなく自分が本当に心躍るものを選び、愛着を持って長く大切に使うこと。技術に陶酔するのではなく、目の前の人を見ること。次世代の経営者が大切にすべき美意識、ナルキッソスの定義は増えていく。

OLD TOWSON
〒252-0303 神奈川県相模原市南区相模大野6-13-6 メゾン・ドゥ・レーヴ1F

Tel: 042-813-4934

https://old-towson.shopinfo.jp/

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